2021.6.26の日経新聞に掲載されて、初めて知った「詩」。
詩人の石垣りん(1920-2004)は、満55歳になる前日に日本興業銀行を定年退職した。
「定年」 石垣りん
ある日
会社がいった。
「あしたからこなくていいよ」人間は黙っていた。
人間には人間の言葉しかなかったから。
会社の耳には
会社のことばしか通じなかったから。
人間はつぶやいた。
「そんなことって!もう40年も働いてきたんですよ」
人間の耳は
会社のことばをよく聞き分けてきたから。
会社が次にいうことばを知っていたから。
「あきらめるしかないな」
人間はボソボソつぶやいた。たしかに
はいった時から
相手は、会社だった。人間なんていやしなかった。
時代は違えども、会社員である限りは定年を迎える。
会社に尽くして頑張ってきたという人もいるだろう。
会社が何とか面倒をみてくれるのではないかと淡い期待を抱く人もいるだろう。
でも、会社は会社。自分は自分。
この詩を読むと改めて、そんなことを感じる。
また、石垣りんの有名な詩で「表札」がある。(←本人による朗読動画あり)
「表札」 石垣りん
自分の住むところには
自分で表札を出すにかぎる。自分の寝泊まりする場所に
他人がかけてくれる表札は
いつもろくなことはない。病院へ入院したら
病室の名札には石垣りん様と
様が付いた。旅館に泊まっても
部屋の外に名前は出ないが
やがて焼き場の鑵にはいると
とじた扉の上に
石垣りん殿と札が下がるだろう
そのとき私がこばめるか?様も
殿も
付いてはいけない自分の住む所には
自分の手で表札をかけるに限る。精神の在り場所も
ハタから表札をかけられてはならない。
石垣りんそれでよい。
彼女は精神の自立を大事にして、生きてきた人だと思う。
こんな素敵な詩人がいたんだなと改めて思った。「自分の人生、自分らしく!」
これもウェルビーイング!
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