今日はこの記事を紹介したい。世界史的な観点で状況を理解したい。
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著作累計が3,500万部を突破した世界的歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、2022年2月28日付の英国ガーディアン紙に「プーチンは負けた――ウラジーミル・プーチンがすでにこの戦争に敗れた理由(原題:Why Vladimir Putin has already lost this war)」と題した記事を寄稿しました。
開戦からまだ1週間にもならないが、ウラジーミル・プーチンが歴史的敗北に向かって突き進んでいる可能性がしだいに高まっているように見える。彼はすべての戦闘で勝っても、依然としてこの戦争で負けうる。ロシア帝国を再建するというプーチンの夢は、これまで常に噓を拠り所としてきた。ウクライナは真の国家ではない、ウクライナ人は真の民族ではない、キエフやハリコフやリヴィウの住民はロシアの支配を切望している、とプーチンは言う。だが、それは真っ赤な噓で、ウクライナは1000年以上の歴史を持つ国家であり、キエフはモスクワがまだ小さな村でさえなかったときに、すでに主要都市だった。ところが、ロシアの独裁者プーチンは、この噓を何度となく口にするうちに、自らそれを信じるようになったらしい。
プーチンはウクライナ侵攻を計画していたとき、既知の事実の数々を当てにしていた。彼は、ロシアが武力でウクライナよりも圧倒的優位に立っていることを知っていた。北大西洋条約機構(NATO)がウクライナに援軍を派遣しないだろうことを承知していた。ヨーロッパ諸国はロシアの石油と天然ガスに依存しているので、ドイツなどの国々が厳しい制裁を科すのを躊躇するだろうこともわかっていた。彼はこれらの既知の事実に基づき、ウクライナを急襲して政府を倒し、キエフに傀儡政権を打ち立て、西側の制裁を乗り切る腹だった。
しかし、この計画には大きな未知数が一つあった。アメリカがイラクで、旧ソ連がアフガニスタンでそれぞれ学んだとおり、一国を征服するのは簡単でも、支配し続けるのははるかに難しいのだ。自分にはウクライナを征服する力があることを、プーチンは知っていた。だが、ウクライナの人々が、ロシアの傀儡政権をあっさり受け容れるだろうか? プーチンは、受け容れるほうに賭けた。なにしろ、聞く気のある人になら誰にでも執拗に繰り返したとおり、ウクライナは真の国家ではなく、ウクライナ人は真の民族ではないというのが、彼の言い分なのだから。2014年、クリミアの人々はロシアからの侵入者にほとんど抵抗しなかった。それなら、2022年にもそうならない道理など、どうしてありえようか?
ところが、日が経つにつれて、プーチンの賭けが裏目に出たことがますます明らかになってきている。ウクライナの人々は渾身の力を振り絞って抵抗しており、全世界の称賛を勝ち取るとともに、この戦争にも勝利しつつある。この先、長らく、暗い日々が待ち受けている。ロシアがウクライナ全土を征服することは、依然としてありうる。だが、戦争に勝つためには、ロシアはウクライナを支配下に置き続けなければならないだろう。それは、ウクライナの人々が許さないかぎり現実にはならない。そして、その可能性は日に日に小さくなっているように見える。
ロシアの戦車が1台破壊され、ロシア兵が1人倒されるごとに、ウクライナの人々は勇気づけられ、抵抗する意欲が高まる。そして、ウクライナ人が1人殺害されるたびに、侵略者に対する彼らの憎しみが増す。憎しみほど醜い感情はない。だが、虐げられている国々にとって、憎しみは秘宝のようなものだ。心の奥底にしまい込まれたこの宝は、何世代にもわたって抵抗の火を燃やし続けることができる。プーチンがロシア帝国を再建するためには、あまり流血を見ずに勝利し、あまり憎しみを招かないような占領につなげる必要がある。それなのにプーチンは、ますます多くのウクライナ人の血を流すことによって、自分の夢が実現する可能性を自ら確実に消し去っている。ロシア帝国の死亡診断書に死因として記される名前は、「ミハイル・ゴルバチョフ」ではないだろう。それは「ウラジーミル・プーチン」となるはずだ。ゴルバチョフはロシア人とウクライナ人が兄弟のように感じられる状況にして舞台を去った。プーチンは逆に、両者を敵同士に変え、今後ウクライナが自国をロシアと敵対する存在として認識することを確実にしたのだ。
突き詰めれば、国家はみな物語の上に築かれている。ウクライナの人々が、この先の暗い日々だけではなく、今後何十年も何世代も語り続けることになる物語が、日を追って積み重なっている。首都を逃れることを拒絶し、自分は脱出の便宜ではなく武器弾薬を必要としているとアメリカに訴える大統領。黒海に浮かぶズミイヌイ島で降伏を勧告するロシアの軍艦に向かって「くたばれ」と叫んだ兵士たち。ロシアの戦車隊の進路に座り込んで止めようとした民間人たち。これこそが国家を形作るものだ。長い目で見れば、こうした物語のほうが戦車よりも大きな価値を持つ。
ロシアの独裁者プーチンは、誰よりもよくそれを知っていてしかるべきだ。彼は子供の頃、レニングラード(現サンクトペテルブルク)包囲戦におけるドイツ人の残虐行為とロシア人の勇敢さについての物語をたっぷり聞かされながら育った。今や彼はそれに類する物語を生み出しているが、その中で自らをヒトラー役に配しているわけだ。
ウクライナ人の勇敢さにまつわる物語は、ウクライナ人だけではなく世界中の人に決意を固めさせる。ヨーロッパ各国の政府やアメリカの政権に、さらには迫害されているロシアの国民にさえ、勇気を与える。ウクライナの人々が大胆にも素手で戦車を止めようとしているのだから、ドイツ政府は思い切って彼らに対戦車ミサイルを供給し、アメリカ政府はあえてロシアを国際銀行間通信協会(SWIFT)から切り離し、ロシア国民もためらわずにこの愚かな戦争に反対する姿勢をはっきりと打ち出すことができるはずだ。
私たちの誰もがその意気に感じ、腹をくくって手を打つことができるだろう。寄付をすることであれ、避難民を歓迎することであれ、オンラインでの奮闘を支援することであれ、何でもいい。ウクライナでの戦争は、世界全体の未来を左右するだろう。もし圧政と侵略が勝利するのを許したら、誰もがその報いを受けることになる。ただ傍観しているだけでは意味がない。今や立ち上がり、行動を起こす時なのだ。
あいにく、この戦争は長引きそうだ。さまざまに形を変えながら、おそらく何年も続くだろう。だが、最も重要な問題にはすでに決着がついている。ウクライナが正真正銘の国家であり、ウクライナ人が正真正銘の民族であり、彼らが新しいロシア帝国の下で暮らすのを断じて望んでいないことを、この数日の展開が全世界に立証した。残された大きな疑問は、ウクライナからのこのメッセージがクレムリンの分厚い壁を貫くのに、あとどれだけかかるか、だろう。
(引用終わり)
北風と太陽ではないが、力づくで解決することはできないもの。
これから社会は大きく変わるだろう。現実的に相手より優る「力」を持つことは大事なことだと思うが、最も大事なことは人の心を理解することだと思う。
世界史を学び、現実を理解すること。
これも、ウェルビーイング!
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